◆健康「優良」児
□ 健康「優良」児
小児科医だった松田道雄さん(1908-1998)の著書に、
「私は赤ちゃん」(http://tinyurl.com/kdv4s)があります。
この本が出版されたのは、1960(昭和35)年
ちょうど、高度経済成長期が始まってから数年が経過した頃ですね。
この本を読んでみると、
住宅団地が郊外に建てられはじめ、従来の複数世代の同居という生活スタイ
ルから、夫婦と子供一人という核家族化へ進展する時代背景が描かれており、
当時の社会情勢をイキイキと思い浮かべることができました。
しかも、本の挿絵を描いているのが
岩崎千尋さん!
今では想像もできない豪華メンバーです。
そのせいもあるのか
46年前の出版であるにもかかわらず、いまだに根強く売れている本です。
超 ロングセラーですね!
若い親が初めての子育てに悩むのは、永久に不変のようです。
さて、この本の中で面白い一節がありました。
「健康優良児 デブは人生の目的ではない」という章です。
この本は、赤ちゃんの「私」の視点を通じて、大人が慣れない子育てに慌て
る様子がユーモラスかつ鋭く描写されています。
保健所の赤ちゃんの健康診断で、
保健婦さんが、肥満児を発育「優良児」であるとして、「私」のお母さんに
もっと熱心に子育てをするよう注意をしたため
健康を自認する「私」が義憤を感じる場面です。
以下、その箇所を抜粋します。
(私)
私はこんなに侮辱を感じたことはない。
人生の目的はデブになることじゃない
人間は生活力を発揮するんでなくちゃだめだ。
私がふとらないのは私がマメに動きすぎるからなんだ。
(中略)
だが、どうして彼が優良児であって、私がそうでないのか。人間のねうちを
目方だけでくらべるなんて、ばかなことがどうしてあるのか。
(抜粋終了)
確かに、数値で比較することには色々と便利な点があります。
そうすることによって、自分が現在立っているポジションを知ることができ
ます。
例えば、
社員一人当たりの粗利益とか、売上高などは、経営戦略構築の大変有効な指
標になります。
目標を定めたり、何かと比較する指標を作るためには、数値化が有効なよう
です。
しかし、一方で、人間の価値観や人との付き合い方の基準を、数値で画一化
してしまうとおかしなことになります。
1歳で15kgの体重 ⇒ 健康「優良」児
1歳で15kg以下の体重 ⇒ 優良でない(健康でない)
「私」のように、よく動き回ってエネルギーを消費するから、贅肉がつきに
くい赤ちゃん
実際は健康なのに、体重という1つの数値だけで比較して、「優良でない」と
決め付けるのは大きな問題がありますね。
年収1000万円の人 ⇒ 友達になろう!
年収 800万円の人 ⇒ 友達になりたくないから、口をきかない!
友人との付き合い方を年収だけで決めるのは道義的にどうかと思います。
実際に実践している人がいるかもしれませんが(笑)。
「優良」であるかどうかを、1つの指標だけで判断するのって難しいですね
本当に発育状況が優良であるかどうかを判断するならば、
血液、内臓、骨格、生活リズム、脳のMRI、その他諸々の検査をしなくて
はなりません。
しかし、赤ちゃん一人一人にそんな検査をやってられません(笑)。
だからこそ、手っ取り早く統計的に比較することが可能な、「体重」という
単一指標に傾いてしまうんでしょうね。
ただそれだと、
赤ちゃんの発育状況を「体重」だけで判断するため、「体重」以外の要素が
全然考慮されなくなってしまいます。
赤ちゃんの体重の話だけなら、笑い話で済みますが
会社の価値を話題にする時は、売上高や経常利益といった、数値の比較だけ
に限定されがちです。
それはそれで有効な面も多いのですが
ある1つの条件だけを捉えて、その会社を「優良である」と評価する
こうなると、上記の健康優良児の話を笑うことができなくなります。
「優良」という言葉は、使い方によっては危険な言葉にもなります。
「優良企業」=法律を破ることなんて決してなく、成長著しい会社!!
一般的な見方としては、どうしてもこうなってしまいますよね。
「優良」という言葉によって、思考停止に陥ってしまうのです。
あえて例を出すまでもない話かもしれませんが、「ライブドア」事件などを
思い起こすと、人間がいかに思考停止に陥りやすいのかが分かると思います。
そんな危険な「優良」という言葉ですが(笑)、
産業廃棄物をめぐる色々な問題を解決するため、密かに「優良」事業者評価
制度というシステムが動きつつあります。
案の定、
「優良」という言葉を前にして、色々な当事者が思考停止に陥っています。
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