建設廃棄物の排出事業者は誰になる?

vol.133 建設廃棄物の排出事業者は誰になる?

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09/06/26号

 
 現在、中央環境審議会 廃棄物・リサイクル部会 廃棄物処理制度専門員会
において、「廃棄物処理法」改正のための具体的な論点整理が図られています。


 排出事業者責任に関する検討項目としては、下記の内容が挙げられています。

    ・排出事業者の産業廃棄物保管行為を行政が把握できるようにするべき
    ・建設系廃棄物の排出事業者は誰になるかを明確化するべき
    ・マニフェストをもっと適切に運用させるべき
    ・委託先の現地確認を義務付けよ!
    ・電子マニフェスト使用を義務付けよ!


 環境省の調査によると、
 廃棄物の不法投棄実行者の半分は、排出事業者でした。
 逆に、産業廃棄物処理業者は約5.5%と非常に低い割合となっています。


 さらに、不法投棄された廃棄物の79%は建設廃棄物でしたので、
 「建設工事に関連している排出事業者が不法投棄に関与していることが多い」
と言わざるを得ません。


 実際、私の行政官時代にも、廃棄物の不適切な保管や処理の対象となってい
たのは、建設廃棄物ばかりでした。


 ターゲットがわかっているなら、速やかに規制できそうにも思えますが、実
際はそう簡単に割り切れないケースがほとんどです。


 例えば

「ここに置いてある廃棄物は、他人のゴミではなく、自社が施工した工事で
発生させたものだ」と言われてしまうと


 廃棄物を20mも積み上げたなどの、余程の危険性がない限り、「その場所
に廃棄物を置くな」という法的な根拠がないのです。


 もちろん、自社の廃棄物ではなく、他人の廃棄物を保管する場合は、産業廃
棄物処理業の許可が必要であり、その許可の有無は簡単に判明しますので、取
り締まりは厳重に行われます。


 しかし、「自社の廃棄物しか保管していない」と主張されてしまうと、他人
の廃棄物が混じっているかどうかは行政が立証しなければなりません。


 このように
 建設系廃棄物は不法投棄などの不適切な処理が行われやすい廃棄物です。


 建設工事の場合は、元請会社と下請会社が協働して施工されることが多いた
め、廃棄物をどの会社が出したかを特定するのが困難です。


 誰が排出事業者かわからない場合は、廃棄物の処理責任者が定まらないこと
となり、廃棄物の不法投棄などが横行しやすくなります。


「それでは困るので、工事の施工によってもっとも多くの利益を得る、『元請
会社』を排出事業者としよう」
 というのが、従来からの行政の運用方針でした。


 「元請会社」が排出事業者となる場合、その現場で発生した産業廃棄物は、
すべて元請会社が発生させたものとなります。


 そのため、その廃棄物を下請会社が運搬や処分をしようとする場合、下請会
社には産業廃棄物処理業の許可が必要となります。

 具体的には、下請会社は営業エリアのすべてで、産業廃棄物処理業の許可取
得が必要ということになります。


例:大阪府全域を営業エリアとする下請会社の場合、大阪府の他、大阪市、
  堺市、東大阪市、高槻市の合計5ヶ所の許可を取ることが必要となります。


 上記の運用の場合、排出事業者は元請会社に一本化されますので、廃棄物の
処理責任や、マニフェストの発行者の問題などは非常に明確になります。


 しかし、下請会社にしてみれば、
「下請とは言え自社が施工しているのに、なぜ排出事業者にはなれず、方々の
 収集運搬業の許可を取らねばならないのだ!」
という大きなデメリットがあります。


 過去、廃棄物処理法には明確に書かれていない、上記の排出事業者は誰にな
るのかという解釈をめぐり、国(旧厚生省)が訴えられた事件があります。


 一審の東京地裁では、「国の法解釈に違法性は無い」と、原告の下請会社が
敗訴しましたが、


 二審の東京高裁では、逆に「国の法解釈は違法だった」として、原告の請求
が認められました。


 これが有名な「フジコー裁判(平成5年10月28日東京高裁)」です。


 「フジコー裁判」では、原告(下請会社)が建物の解体工事を自ら施工して
いる以上、原告も排出事業者にあたるとされました。


 フジコー裁判の判決を受け、旧厚生省は、平成6年に衛産第82号という通知
を出し、
  ・原則は、元請会社が排出事業者となる
  ・当該建設工事のうち他の部分が施工される期間とは明確に段階が画される
  期間に施工される工事のみを一括して請け負わせる場合であって、元請会
  社が自ら総合的に企画、調整及び指導を行っていると認められるときは、
  元請と下請の両方が排出事業者となる

 と、解釈を若干変更しました。


 ただ、この通知を読むだけでは、原則の例外となる工事がどんなものかはよ
くわかりません。


 どう解釈するかによって、排出事業者が全く異なることになりますので、行
政としては判断を慎重に行う必要があります。


 また、例外扱いとなる解釈基準を故意に悪用し、すべて自社施工であると言
い張って、他人の廃棄物を無許可で処理する事業者が後を絶ちません。


 そのため、この機会に、建設工事の排出事業者を「廃棄物処理法」に明記し、
誤解が生じないようにしてはどうかという機運が高まっています。


 是非、工事の具体的な条件分けをし、誰もがわかる基準を明確にしてもらい
たいものです。